今回は、一橋大学数学(2021年後期 第3問)の解説をしたいと思います。
問題
$\dfrac{a+b}{2}\lt\sqrt{ab}+\dfrac{k}{\sqrt{ab}}$ かつ $a\gt b\gt0$ を満たす整数 $a,\,b$ が存在するような実数 $k$ の範囲を求めよ。
(一橋大学)
解答
解法1
与式より
$$\begin{align}
\dfrac{k}{\sqrt{ab}} &\gt \dfrac{a+b}{2}-\sqrt{ab} \\
k &\gt \sqrt{ab}\cdot\dfrac{a+b-2\sqrt{ab}}{2} \\
&= \sqrt{ab}\cdot\dfrac{(\sqrt{a\vphantom{b}}-\sqrt{b}\,)^2}{2}
\end{align}$$となる。
$$f(a,\,b)=\sqrt{ab}\,(\sqrt{a\vphantom{b}}-\sqrt{b}\,)^2$$とおき、整数 $a,\,b$ が $a\gt b\gt0$ を満たしながら動くときの $f(a,\,b)$ の最小値を考える。
ここで、$b$ を固定して考えると、$a\gt b$ において $f(a,\,b)$ は $a$ についての単調増加な関数であるから、$a$ が整数であることに注意すると、$a=b+1$ のとき最小となる。
このとき
$$\begin{align}
f(a,\,b) &= \sqrt{b(b+1)}\,(\sqrt{b+1}-\sqrt{b}\,)^2 \\
&= \sqrt{b(b+1)}\cdot\dfrac{\{(\sqrt{b+1}-\sqrt{b}\,)(\sqrt{b+1}+\sqrt{b}\,)\}^2}{(\sqrt{b+1}+\sqrt{b}\,)^2} \\
&= \dfrac{\sqrt{b(b+1)}}{(\sqrt{b+1}+\sqrt{b}\,)^2} \\[0.2em]
&= \dfrac{\sqrt{b(b+1)}}{2b+1+2\sqrt{b(b+1)}} \\[0.2em]
&= \dfrac{1}{\dfrac{2b+1}{\sqrt{b(b+1)}}+2} \\[0.2em]
&= \dfrac{1}{\sqrt{\dfrac{4b(b+1)+1}{b(b+1)}}+2} \\[0.2em]
&= \dfrac{1}{\sqrt{4+\dfrac{1}{b(b+1)}}+2}
\end{align}$$となる。
$f(a,\,b)$ が最小となるのは $b(b+1)$ が最小となるとき、すなわち $b=1$ のときである。なお、そのときの $a$ は $a=1+1=2$ である。
このとき
$$\begin{align}
k &\gt \dfrac{1}{2}f(a,\,b) \\
&= \dfrac{1}{2}\cdot\sqrt{2\cdot1}\cdot(\sqrt{2}-1)^2 \\
&= \dfrac{3\sqrt{2}}{2}-2
\end{align}$$となる。
よって、$k\gt\dfrac{3\sqrt{2}}{2}-2$ のときは $(a,\,b)=(2,\,1)$ とすれば条件を満たすが、$k\leqq\dfrac{3\sqrt{2}}{2}-2$ のときは題意を満たす $(a,\,b)$ が存在しない。
以上より、求める $k$ の範囲は
$$\boldsymbol{k\gt\dfrac{3\sqrt{2}}{2}-2}$$
解法2
$a\gt b\gt0$ なので、相加・相乗平均の大小関係より
$$\dfrac{a+b}{2}\geqq\sqrt{ab}$$となるので、与式が成り立つためには
$$k\gt0 \quad\cdots\text{①}$$が必要である。
このとき、与式の両辺($\,\gt0\,$)を $2$ 乗すると
$$\dfrac{(a+b)^2}{4}\lt ab+2k+\dfrac{k^2}{ab}$$となる。
$$\begin{align}
&\hphantom{=} \ \ (\text{右辺})-(\text{左辺}) \\
&= \dfrac{k^2}{ab}+2k+ab-\dfrac{(a+b)^2}{4} \\
&= \dfrac{k^2}{ab}+2k+\dfrac{4ab-(a^2+2ab+b^2)}{4} \\
&= \dfrac{k^2}{ab}+2k-\dfrac{(a-b)^2}{4}
\end{align}$$より
$$\dfrac{k^2}{ab}+2k-\dfrac{(a-b)^2}{4}\gt0 \quad\cdots\text{②}$$となる。
②の左辺が最大となるときを考えると、それは $ab$ と $a-b$ がともに最小のときであり、$a,\,b$ が $a\gt b\gt0$ を満たす整数であることに注意すると、$(a,\,b)=(2,\,1)$ のときである。
$(a,\,b)=(2,\,1)$ を②に代入すると
$$\begin{array}{c}
\begin{align}
\dfrac{k^2}{2}+2k-\dfrac{1}{4} &\gt 0 \\
2k^2+8k-1 &\gt 0
\end{align} \\
\therefore \ k\lt-\dfrac{3\sqrt{2}}{2}-2, \ \ \dfrac{3\sqrt{2}}{2}-2\lt k
\end{array}$$①より、$\dfrac{3\sqrt{2}}{2}-2=\sqrt{\dfrac{9}{2}}-\sqrt{4}\gt0$ に注意すると
$$k\gt\dfrac{3\sqrt{2}}{2}-2$$となる。
よって、$k\gt\dfrac{3\sqrt{2}}{2}-2$ のときは $(a,\,b)=(2,\,1)$ とすれば条件を満たすが、$k\leqq\dfrac{3\sqrt{2}}{2}-2$ のときは題意を満たす $(a,\,b)$ が存在しない。
以上より、求める $k$ の範囲は
$$\boldsymbol{k\gt\dfrac{3\sqrt{2}}{2}-2}$$
$$\boldsymbol{k\gt\dfrac{3\sqrt{2}}{2}-2}$$
解説
「解法1」は、与式から $k$ だけを分離して考える方法です。
与式を変形すると $k\gt\dfrac{1}{2}f(a,\,b)$ となります。
いま、$k$ がある実数のとき、上の不等式を満たす $(a,\,b)$ が $1$ 組でもあれば $\mathrm{OK}$,$1$ 組もなければ $\mathrm{NG}$ となります。
これを「$\,k$ は $\dfrac{1}{2}f(a,\,b)$ の最小値より大きければよい」と言い換えられるかがポイントです。
つまり、$f(a,\,b)$ が $(a,\,b)=(a’,\,b’)$ のとき最小となるとすると、$k\gt\dfrac{1}{2}f(a’,\,b’)$ を満たす任意の $k$ に対して、$(a’,\,b’)$ が条件を満たすということです。
あとは $f(a,\,b)$ の最小値を考えるわけですが、$2$ 変数を一度に扱うのは難しいので、一旦 $b$ を固定すると $a$ はなるべく小さいことが分かり、「$\,a\gt b$ かつ $a$ は整数」という条件から $a=b+1$ と確定します。
そうすれば $f(a,\,b)$ は $1$ 変数関数となるので、扱いやすくなります。
「解法2」は、$\sqrt{\hphantom{m}\vphantom{b}}$ があると気持ち悪いので $2$ 乗して消そうとした解法です。
左辺が $0$ 以上なのは自明ですが、右辺は $k$ があり $0$ 以上とは限りません。
そこで、まず $k\gt0$ である必要性を示します。
両辺が正であることが分かったら、両辺を $2$ 乗して、②を導きます。
「解法1」と同様、$k$ がある実数のとき、②を満たす $(a,\,b)$ が $1$ 組でもあれば $\mathrm{OK}$,$1$ 組もなければ $\mathrm{NG}$ となります。
これを言い換えると、「②の左辺を最大にするような $(a,\,b)$ に対してのみ②が成り立てばよい」となります。
任意の $k\gt0$ に対して、②の左辺は $(a,\,b)=(2,\,1)$ のとき最大となり、このとき $k$ に関する条件が最も緩くなります。
あとは簡単な $2$ 次不等式の問題に帰着し、①に注意すると範囲は $1$ つに絞られることが分かります。
どちらの解法を選んだせよ、自分がいま何を求めようとしているのかを分かっていないと先に進めない問題となっています。
まとめ
今回は、一橋大学数学(2021年後期 第3問)の解説をしました。
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