今回は、東京大学理系数学(2022年 第6問)の解説をしたいと思います。
問題
$\mathrm{O}$ を原点とする座標平面上で考える。$0$ 以上の整数 $k$ に対して,ベクトル $\overrightarrow{v_k}$ を
$$\overrightarrow{v_k}=\left( \cos\dfrac{2k\pi}{3}, \ \sin\dfrac{2k\pi}{3} \right)$$と定める。投げたとき表と裏がどちらも $\dfrac{1}{2}$ の確率で出るコインを $N$ 回投げて,座標平面上に点 $\mathrm{X}_0,\mathrm{X}_1,\mathrm{X}_2,\cdots\cdots,\mathrm{X}_N$ を以下の規則(ⅰ),(ⅱ)に従って定める。
(ⅰ) $\mathrm{X}_0$ は $\mathrm{O}$ にある。
(ⅱ) $n$ を $1$ 以上 $N$ 以下の整数とする。$\mathrm{X}_{n-1}$ が定まったとし,$\mathrm{X}_n$ を次のように定める。
・$n$ 回目のコイン投げで表が出た場合,
$$\overrightarrow{\mathrm{OX}_n}=\overrightarrow{\mathrm{OX}_{n-1}}+\overrightarrow{v_k}$$により $\mathrm{X}_n$ を定める。ただし,$k$ は $1$ 回目から $n$ 回目までのコイン投げで裏が出た回数とする。
・$n$ 回目のコイン投げで裏が出た場合,$\mathrm{X}_n$ を $\mathrm{X}_{n-1}$ と定める。⑴ $N=8$ とする。$\mathrm{X}_8$ が $\mathrm{O}$ にある確率を求めよ。
⑵ $N=200$ とする。$\mathrm{X}_{200}$ が $\mathrm{O}$ にあり,かつ,合計 $200$ 回のコイン投げで表がちょうど $r$ 回出る確率を $p_r$ とおく。ただし $0\leqq r\leqq 200$ である。$p_r$ を求めよ。また $p_r$ が最大となる $r$ の値を求めよ。
(東京大学)
解答
⑴
$0$ 以上の整数 $k$ に対して
$$\begin{eqnarray}
\overrightarrow{v_{3k}} &=& \left( \cos 2k\pi, \ \sin 2k\pi \right) \\
&=& (1,0) = \overrightarrow{v_0} \\[0.5em]
\overrightarrow{v_{3k+1}} &=& \left( \cos \left(2k\pi+\dfrac{2}{3}\pi\right), \ \sin \left(2k\pi+\dfrac{2}{3}\pi\right) \right) \\
&=& \bigg(-\dfrac{1}{2},\dfrac{\sqrt{3}}{2}\bigg) = \overrightarrow{v_1} \\[0.5em]
\overrightarrow{v_{3k+2}} &=& \left( \cos \left(2k\pi+\dfrac{4}{3}\pi\right), \ \sin \left(2k\pi+\dfrac{4}{3}\pi\right) \right) \\
&=& \bigg(-\dfrac{1}{2},-\dfrac{\sqrt{3}}{2}\bigg) = \overrightarrow{v_2}
\end{eqnarray}$$が成り立つ。
コイン投げで表が出たときの $\overrightarrow{v_k}$ として $\overrightarrow{v_0},\overrightarrow{v_1},\overrightarrow{v_2}$ がそれぞれ $a,b,c$ 回足されて、かつ $N$ 回のコイン投げの結果 $\mathrm{X}_N$ が $\mathrm{O}$ にあったとすると
$$\begin{eqnarray}
(0,0) &=& a\overrightarrow{v_0}+b\overrightarrow{v_1}+c\overrightarrow{v_2} \\
&=& a(1,0)+b\bigg(-\dfrac{1}{2},\dfrac{\sqrt{3}}{2}\bigg)+c\bigg(-\dfrac{1}{2},-\dfrac{\sqrt{3}}{2}\bigg)
\end{eqnarray}$$したがって
$$\left\{
\begin{eqnarray}
a-\dfrac{1}{2}(b+c) &=& 0 \quad\cdots\text{①} \\
\dfrac{\sqrt{3}}{2}(b-c) &=& 0 \quad\cdots\text{②}
\end{eqnarray}
\right.$$①,②より $a=b=c$ となるので、$\overrightarrow{v_0},\overrightarrow{v_1},\overrightarrow{v_2}$ は同じ回数だけ足され、コイン投げで表が出る回数は $3$ の倍数となることがわかる。
したがって、$\mathrm{X}_8$ が $\mathrm{O}$ にあるとき、$8$ 回のコイン投げのうち表が出る回数は $0,3,6$ 回のいずれかである。
(ア) 表が $0$ 回出るとき( $a=b=c=0$ のとき)
このとき裏が $8$ 回出るので、その場合の数は $1$ 通りである。
(イ) 表が $3$ 回出るとき( $a=b=c=1$ のとき)
このとき裏が $5$ 回出る。
ここで、$k=0,1,2,\cdots,5$ に対して、$h_k$ を「 $k$ 回目に裏が出てから $k+1$ 回目に裏が出るまでに表が出た回数」とする。ただし、$h_5$ については「 $5$ 回目に裏が出たあとに表が出た回数」とする。
規則(ⅱ)より、コイン投げで表が出たときに足される $\overrightarrow{v_k}$ は、裏が $1$ 回出る度に $\overrightarrow{v_0}\Rightarrow\overrightarrow{v_1}\Rightarrow\overrightarrow{v_2}\Rightarrow\overrightarrow{v_0}\Rightarrow\cdots$ と推移する。
$a=b=c=1$ より
$$h_0+h_3=h_1+h_4=h_2+h_5=1$$$h_0+h_3=1$ をみたす $0$ 以上の整数の組 $(h_0,h_3)$ は
$$(h_0,h_3) = (0,1),(1,0)$$の $2$ 通りである。
$h_1+h_4=1, \ h_2+h_5=1$ をみたす $0$ 以上の整数の組 $(h_1,h_4),(h_2,h_5)$ についても同様にそれぞれ $2$ 通りである。
よって、表が $3$ 回出るとき、$\mathrm{X}_8$ が $\mathrm{O}$ にある場合の数は
$$2^3=8\text{(通り)}$$
(ウ) 表が $6$ 回出るとき( $a=b=c=2$ のとき)
このとき裏が $2$ 回出る。
ここで、(イ)と同様に $k=0,1,2$ に対して $h_k$ を定める。ただし、$h_2$ については「 $2$ 回目に裏が出たあとに表が出た回数」とする。
$a=b=c=2$ より
$$h_0=h_1=h_2=2$$となるので、表が $6$ 回出るとき、$\mathrm{X}_8$ が $\mathrm{O}$ にある場合の数は $1$ 通りである。
コインを $8$ 回投げたときの表・裏の並び方の総数は $2^8$ 通りなので、(ア),(イ),(ウ)より、求める確率は
$$\dfrac{1+8+1}{2^8}=\boldsymbol{\dfrac{5}{128}}$$
$$\boldsymbol{\dfrac{5}{128}}$$
⑵
⑴より、$X_N$ が $\mathrm{O}$ にあるとき、コイン投げで表が出る回数は $3$ の倍数に限られるので、$r$ が $3$ の倍数でないとき$$p_r=0$$
以下、$r$ が $3$ の倍数のときを考える。
このとき、実数 $s$(ただし $s=0,1,2,\cdots,66$ )を用いて $r=3s$ と表せる。
表がちょうど $3s$ 回出るとき、裏は $(200-3s)$ 回出る。
ここで、(イ)と同様に $k=0,1,2,\cdots,200-3s$ に対して $h_k$ を定める。ただし、$h_{200-3s}$ については「 $(200-3s)$ 回目に裏が出たあとに表が出た回数」とする。
$a=b=c=\dfrac{r}{3}=s$ より
$$\begin{eqnarray}
&& h_0+h_3+\cdots+h_{198-3s} \\
&=& h_1+h_4+\cdots+h_{199-3s} \\
&=& h_2+h_5+\cdots+h_{200-3s} = s
\end{eqnarray}$$$h_0+h_3+\cdots+h_{198-3s}=s$ をみたす $0$ 以上の整数の組 $(h_0,h_3,\cdots,h_{198-3s})$ は「 $s$ 個の○と $(66-s)$ 個の|を並べる方法の総数」に等しく ${}_{66}\mathrm{C}_s$ 通りである。
$h_1+h_4+\cdots+h_{199-3s}=s,$ $h_2+h_5+\cdots+h_{200-3s}=s$ をみたす $0$ 以上の整数の組 $(h_1,h_4,\cdots,h_{199-3s}),$ $(h_2,h_5,\cdots,h_{200-3s})$ についても同様にそれぞれ ${}_{66}\mathrm{C}_s$ 通りである。
よって、表が $3s$ 回出るとき、$\mathrm{X}_{200}$ が $\mathrm{O}$ にある場合の数は $({}_{66}\mathrm{C}_s)^3$ 通りである。
コインを $200$ 回投げたときの表・裏の並び方の総数は $2^{200}$ 通りなので、$r$ が $3$ の倍数のとき
$$p_r=\dfrac{({}_{66}\mathrm{C}_s)^3}{2^{200}} = \dfrac{\left({}_{66}\mathrm{C}_{\frac{r}{3}}\right)^3}{2^{200}} \quad\cdots\text{③}$$
以上より、求める確率 $p_r$ は
$$p_r=\left\{
\begin{array}{cl}
\boldsymbol{\dfrac{\left({}_{66}\mathrm{C}_{\frac{r}{3}}\right)^3}{2^{200}}} & \mathbf{\text{(}} \ \boldsymbol{r} \ \mathbf{\text{が 3 の倍数のとき)}} \\
\boldsymbol{0} & \mathbf{\text{(}} \ \boldsymbol{r} \ \mathbf{\text{が 3 の倍数でないとき)}}
\end{array}
\right.$$
また③より、$p_r$ が最大となるのは ${}_{66}\mathrm{C}_s$ が最大となるときである。
$s=0,1,2,\cdots 65$ のとき
$$\begin{eqnarray}
\dfrac{{}_{66}\mathrm{C}_{s+1}}{{}_{66}\mathrm{C}_s}
&=& \dfrac{66!}{(65-s)!(s+1)!}\cdot\dfrac{(66-s)!s!}{66!} \\
&=& \dfrac{66-s}{s+1}
\end{eqnarray}$$$$\dfrac{66-s}{s+1}\gtrless 1 \quad \Longleftrightarrow \quad s\lessgtr 32.5\text{(複号同順)}$$より、$s=0,1,2,\cdots,32$ のとき
$$\begin{eqnarray}
& & \dfrac{{}_{66}\mathrm{C}_{s+1}}{{}_{66}\mathrm{C}_s}\gt 1 \\
&\Longleftrightarrow& \ {}_{66}\mathrm{C}_s \lt {}_{66}\mathrm{C}_{s+1} \\
&\Longleftrightarrow& \ {}_{66}\mathrm{C}_0 \lt {}_{66}\mathrm{C}_1 \lt \cdots \lt {}_{66}\mathrm{C}_{32} \lt {}_{66}\mathrm{C}_{33} \quad\cdots\text{④}
\end{eqnarray}$$$s=33,34,\cdots,65$ のとき
$$\begin{eqnarray}
& & \dfrac{{}_{66}\mathrm{C}_{s+1}}{{}_{66}\mathrm{C}_s}\lt 1 \\
&\Longleftrightarrow& \ {}_{66}\mathrm{C}_s \gt {}_{66}\mathrm{C}_{s+1} \\
&\Longleftrightarrow& \ {}_{66}\mathrm{C}_{33} \gt {}_{66}\mathrm{C}_{34} \gt \cdots \gt {}_{66}\mathrm{C}_{65} \gt {}_{66}\mathrm{C}_{66} \quad\cdots\text{⑤}
\end{eqnarray}$$
④,⑤より
$${}_{66}\mathrm{C}_0 \lt {}_{66}\mathrm{C}_1 \lt \cdots \lt {}_{66}\mathrm{C}_{32} \lt {}_{66}\mathrm{C}_{33} \gt {}_{66}\mathrm{C}_{34} \gt \cdots \gt {}_{66}\mathrm{C}_{65} \gt {}_{66}\mathrm{C}_{66}$$となるので、${}_{66}\mathrm{C}_s$ は $s=33$ すなわち $r=3\cdot 33=99$ のとき最大となることがわかる。
以上より、$p_r$ が最大となる $r$ の値は $r=\mathbf{99}$ である。
$$p_r=\left\{
\begin{array}{cl}
\boldsymbol{\dfrac{\left({}_{66}\mathrm{C}_{\frac{r}{3}}\right)^3}{2^{200}}} & \mathbf{\text{(}} \ \boldsymbol{r} \ \mathbf{\text{が 3 の倍数のとき)}} \\
\boldsymbol{0} & \mathbf{\text{(}} \ \boldsymbol{r} \ \mathbf{\text{が 3 の倍数でないとき)}}
\end{array}
\right.$$
$p_r$ が最大となる $r$ の値は $r=\mathbf{99}$
解説
コインの出方と点の移動の関係を読み取る、洞察力の必要な問題です。
解答にもありますが、コインの裏が出るたびに「足される $\overrightarrow{v_k}$ 」が周期的に変わるのがポイントなので、コインの「表」「裏」を並べるとき、「裏」を先に配置しておいて、その両端または間に「表」を入れていくイメージです。
⑴は $N$ の数も小さいので、答えだけでも合わせたい問題です。
できれば⑵に対応できるように、一般的な $N$ の場合にも適用できるような考え方をしたいところですが、一方で(手段を選ばず)何が何でも⑴だけは正解するといった姿勢も大事です。
⑵後半の「確率の最大」を考える問題は類題も多いので、$p_r$ を求めたらぜひ取りたい問題です。
今回は ${}_{66}\mathrm{C}_s=\dfrac{66!}{(66-s)!s!}$ という分数式で表された数の最大を考えるので、${}_{66}\mathrm{C}_s$ と ${}_{66}\mathrm{C}_{s+1}$ の比を考えるのが有効です。
まとめ
今回は、東京大学理系数学(2022年 第6問)の解説をしました。
ほかの問題にもチャレンジしよう!
東京大学 理系数学 2022年 第1問 解説
東京大学 理系数学 2022年 第2問 解説
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東京大学 理系数学 2022年 第4問 解説
東京大学 理系数学 2022年 第5問 解説
東京大学 理系数学 2022年 第6問 解説