今回は、京都大学理学部特色入試・数学(2023年度 第4問)の解説をしたいと思います。
問題
$p$ を $3$ 以上の素数とし,$a$ を整数とする.このとき,$p^2$ 以上の整数 $n$ であって
(京都大学)
$${}_n\mathrm{C}_{p^2}\equiv a \pmod{p^3}$$を満たすものが存在することを示せ.
解答
以下、$i$ を法として整数 $s$ と $t$ が合同であることを $s\overset{i}{\equiv}t$ と表す。
一般に、自然数 $A,B$ が互いに素であるとき、$(B-1)$ 個の整数
$$A,\,2A,\,3A,\,\cdots,\,(B-1)A \quad\cdots\text{①}$$を $B$ で割った余りは相異なる。$\cdots(*)$(補足1)
また、$A,B$ が互いに素であることと、$1$ 以上 $B-1$ 以下の整数のうち $B$ で割り切れるものが無いことから、余りが $0$ となることはない。すなわち、余りは $1$ 以上 $B-1$ 以下である。
よって、①のうち $B$ で割った余りが $1$ である整数がただ $1$ つ存在する。その整数が $\alpha A$ であるときの $\alpha$ を $\langle A|{}_B\rangle$ で表すとすると、$\langle A|{}_B\rangle$ は $1$ 以上 $B-1$ 以下の整数であり
$$A\cdot\langle A|{}_B\rangle\overset{B}{\equiv}1$$が成り立ち、$\langle A|{}_B\rangle$ は $B$ と互いに素であることが分かる。
また、整数 $A,C$ に対して $\dfrac{C}{A}$ が整数で、さらに整数 $B,q,r$ を用いて $\dfrac{C}{A}=Bq+r$ と表せるとき、$\dfrac{C}{A}\overset{B}{\equiv}r$ であり
$$\begin{align}
C &= A(Bq+r) \\[0.3em]
C\cdot\langle A|{}_B\rangle &= A\cdot\langle A|{}_B\rangle\cdot(Bq+r) \\[0.1em]
C\cdot\langle A|{}_B\rangle &\overset{B}{\equiv} A\cdot\langle A|{}_B\rangle\cdot r \overset{B}{\equiv}1\cdot r=r
\end{align}$$となるから、整数 $\dfrac{C}{A}$ を $B$ で割った余りは、$C\cdot\langle A|{}_B\rangle$ を $B$ で割った余りと等しい。$\cdots(**)$
以下、$n=mp^2$($\,m=1,2,3,\cdots,p^3\,$)のとき題意を満たすことを示す。
(ⅰ) $p=3$ のとき
$$\begin{align}
{}_{mp^2}\mathrm{C}_{p^2} &= {}_{9m}\mathrm{C}_{9} = \dfrac{\displaystyle\prod_{k=0}^{8}(9m-k)}{\displaystyle\prod_{k=1}^{9}k} \\
&= \dfrac{9m}{9}\cdot\dfrac{\displaystyle\prod_{k=1}^{8}(9m-k)}{\displaystyle\prod_{k=1}^{8}k} = m\cdot\dfrac{\dfrac{1}{9}\displaystyle\prod_{k=1}^{8}(9m-k)}{\dfrac{1}{9}\displaystyle\prod_{k=1}^{8}k}
\end{align}$$であり、$D_1,\,N_1$ を
$$D_1=\dfrac{1}{9}\displaystyle\prod_{k=1}^{8}k,\quad N_1=\dfrac{1}{9}\displaystyle\prod_{k=1}^{8}(9m-k)$$により定める。
$D_1$ について、$1,2,3,\cdots,8$ のうち $3$ の倍数は $2$ 個あり、$3^2$ の倍数はないので、これは $3$ と互いに素な自然数となる。また、$D_1$ を $27$ で割った余りは
$$\begin{eqnarray}
D_1 &=& \dfrac{1}{9}\cdot1\cdot2\cdot3\cdot4\cdot5\cdot6\cdot7\cdot8 \\[0.2em]
&=& 2\cdot1\cdot4\cdot5\cdot2\cdot7\cdot8 \\[0.2em]
&=& 28\cdot32\cdot5 \\
&\overset{27}{\equiv}& 1\cdot5\cdot5=25.
\end{eqnarray}$$
一方、$N_1$ については
$$\begin{eqnarray}
N_1 &=& (9m-1)(9m-2)(3m-1) \\
&& \cdot(9m-4)(9m-5)(3m-2) \\
&& \cdot(9m-7)(9m-8).
\end{eqnarray}$$ここで
$$\begin{array}{l}
(9m-1)(9m-2)=81m^2-3\cdot9m+2\overset{27}{\equiv}2, \\
(9m-4)(9m-5)=81m^2-9\cdot9m+20\overset{27}{\equiv}-7, \\
(9m-7)(9m-8)=81m^2-15\cdot9m+56\overset{27}{\equiv}2
\end{array}$$より
$$\begin{eqnarray}
N_1 &\overset{27}{\equiv}& 2\cdot(-7)\cdot2(3m-1)(3m-2) \\
&\overset{27}{\equiv}&-(3m-1)(3m-2).
\end{eqnarray}$$
$(**)$ より
$$\begin{align}
{}_{9m}\mathrm{C}_{9} &= \dfrac{m\cdot N_1}{D_1} \\
&\overset{27}{\equiv} m\cdot N_1\cdot\langle D_1|{}_{27}\rangle \\
&\overset{27}{\equiv} -m(3m-1)(3m-2)\cdot\langle 25|{}_{27}\rangle.
\end{align}$$
ここで
$$25\cdot13=325\overset{27}{\equiv}1$$より
$$\langle 25|{}_{27}\rangle=13\overset{27}{\equiv}-14$$であるから
$$\begin{align}
{}_{9m}\mathrm{C}_{9} &\overset{27}{\equiv} -m(3m-1)(3m-2)\cdot(-14) \\[0.2em]
&= 126m^2(m-1)+28m \\
&\overset{27}{\equiv} 18m^2(m-1)+m.
\end{align}$$
よって、$m\overset{3}{\equiv}0,1$ のとき
$${}_{9m}\mathrm{C}_{9} \overset{27}{\equiv} m.$$
$m\overset{3}{\equiv}-1$ のとき、$1$ 以上 $9$ 以下の整数 $m’$ を用いて $m=3m’-1$ と表せて
$$\begin{align}
{}_{9m}\mathrm{C}_{9} &\overset{27}{\equiv} 18m^2(m-1)+m \\[0.2em]
&= 18(3m’-1)^2(3m’-2)+m \\[0.2em]
&= 18(3m’-1)(9m’^2-9m+2)+m \\
&\overset{27}{\equiv} 18(3m’-1)\cdot2+3m’-1 \\
&\overset{27}{\equiv} -36+3m’-1 \\
&\overset{27}{\equiv} 3m’-10
\end{align}$$より、${}_{9m}\mathrm{C}_{9}$ を $27$ で割った余りは次のようになる。
$$\begin{array}{c|ccccccccc}\hline
m’ & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 & 7 & 8 & 9 \\ \hline
m & 2 & 5 & 8 & 11 & 14 & 17 & 20 & 23 & 26 \\ \hline
\begin{array}{c}{}_{9m}\mathrm{C}_{9} \\ \pmod{27}\end{array} & 20 & 23 & 26 & 2 & 5 & 8 & 11 & 14 & 17 \\ \hline
\end{array}$$
以上より、${}_{9m}\mathrm{C}_{9}$($\,m=1,2,3,\cdots,27\,$)を $27$ で割った余りと、$0$ 以上 $26$ 以下の整数は、$1$ 対 $1$ 対応する。
(ⅱ) $p\geqq5$ のとき
$$\begin{align}
{}_{mp^2}\mathrm{C}_{p^2} &= \dfrac{\displaystyle\prod_{k=0}^{p^2-1}(mp^2-k)}{\displaystyle\prod_{k=1}^{p^2}k} = \dfrac{mp^2}{p^2}\cdot\dfrac{\displaystyle\prod_{k=1}^{p^2-1}(mp^2-k)}{\displaystyle\prod_{k=1}^{p^2-1}k} \\
&= m\cdot\dfrac{\dfrac{2^{p^2-1}}{p^{p-1}}\displaystyle\prod_{k=1}^{p^2-1}(mp^2-k)}{\dfrac{2^{p^2-1}}{p^{p-1}}\displaystyle\prod_{k=1}^{p^2-1}k}
\end{align}$$であり、$D,\,N$ を
$$D=\dfrac{2^{p^2-1}}{p^{p-1}}\displaystyle\prod_{k=1}^{p^2-1}k,\quad N=\dfrac{2^{p^2-1}}{p^{p-1}}\displaystyle\prod_{k=1}^{p^2-1}(mp^2-k)$$により定める。
$D$ について、整数 $k$($\,1\leqq k\leqq p^2-1\,$)のうち $p$ の倍数は $(p-1)$ 個あり、$p^2$ の倍数はない。さらに $2^{p^2-1}$ は $p$ と互いに素なので、$D$ は $p$ と互いに素な自然数となる。また、$D$ は $m$ に依存しない値である。
$N$ についても、整数 $mp^2-k$($\,1\leqq k\leqq p^2-1\,$)のうち $p$ の倍数は $(p-1)$ 個あり、$p^2$ の倍数はない。さらに $2^{p^2-1}$ は $p$ と互いに素なので、$N$ は $p$ と互いに素な自然数となる。
以下、$N$ を $p^3$ で割った余りが $m$ に依存しない値となることを示す。
$$N=\dfrac{1}{p^{p-1}}\displaystyle\prod_{k=1}^{p^2-1}2(mp^2-k)$$であり、$k=p,\,2p,\,3p,\,\cdots,\,(p-1)p$ の項を $p$ で約分した形に変形すると
$$N=N’\times\displaystyle\prod_{k=1}^{p-1}2(mp-k).$$ここで、$N’$ は $2(mp^2-1), \ $$2(mp^2-2), \ $$\cdots, \ $$2\{mp^2-(p^2-1)\}$ のうち $2(mp^2-p), \ $$2(mp^2-2p), \ $$\cdots, \ $$2\{mp^2-(p-1)p\}$ を除いた $(p^2-p)$ 個(偶数個)の整数の積である。
(ア) $N’$ について
$2(mp^2-k)$($\,1\leqq k\leqq p^2-1\,$)の平均は $2mp^2-p^2$ であり、この平均との差をとると
$$\begin{eqnarray}
&& 2(mp^2-k)-(2mp^2-p^2) \\
&=& p^2-2k \\
&=& p^2-2,\,p^2-4,\,\cdots,\,-(p^2-4),\,-(p^2-2)
\end{eqnarray}$$となり、$-(p^2-2)$ 以上 $p^2-2$ 以下のすべての奇数からなる集合となる。
ここで、$2(mp^2-kp)$($\,1\leqq k\leqq p-1\,$)の平均も $2mp^2-p^2$ であるから、$2(mp^2-k)$($\,1\leqq k\leqq p^2-1\,$)各項からこれらを除いた数列(すなわち $N’$ の因数)の平均も $2mp^2-p^2$ であり、この平均との差の絶対値が $t$ である $2$ 整数 $p^2(2m-1)+t,\,$$p^2(2m-1)-t$ はともに $N’$ の因数である。また、これらの積は
$$\begin{eqnarray}
&& \{p^2(2m-1)+t\}\{p^2(2m-1)-t\} \\[0.2em]
&=& p^4(2m-1)^2-t^2
\end{eqnarray}$$となる。
このように、平均との差の絶対値が等しい因数どうしで積をとると
$$\begin{eqnarray}
N’ &=& 2(mp^2-1)\cdot2(mp^2-2) \\
&& \cdot\,\cdots\,\cdot2\{mp^2-(p^2-2)\}\cdot2\{mp^2-(p^2-1)\} \\[0.3em]
&=& \{p^2(2m-1)+(p^2-2)\}\{p^2(2m-1)+(p^2-4)\} \\
&& \cdot\,\cdots\,\cdot\{p^2(2m-1)-(p^2-4)\}\{p^2(2m-1)-(p^2-2)\} \\[0.3em]
&=& \{p^4(2m-1)^2-(p^2-2)^2\}\{p^4(2m-1)^2-(p^2-4)^2\} \\
&& \cdot\,\cdots\,\cdot\{p^4(2m-1)^2-3^2\}\{p^4(2m-1)^2-1^2\}.
\end{eqnarray}$$
ここで、最後の式を展開することを考える。
$\{\quad\}$ は $\dfrac{p^2-p}{2}$ 個あり、このうち $1$ つでも $p^4(2m-1)^2$ の方を選んで積をとると、少なくとも $p^4$ の倍数となるので、$p^3$ で割り切れる。
したがって、$N’$ を $p^3$ で割った余りは、すべての $\{\quad\}$ で $p^4(2m-1)^2$ 以外の方を選んで積をとったもの、すなわち
$$(-1^2)\cdot(-3^2)\cdot\,\cdots\,\cdot\{-(p^2-2)^2\}$$であり、これは $m$ に依存しない値となる。
(イ) $\displaystyle\prod_{k=1}^{p-1}2(mp-k)$ について
$2(mp-k)$($\,1\leqq k\leqq p-1\,$)の平均は $2mp-p$ であり、この平均との差をとると
$$\begin{eqnarray}
&& 2(mp-k)-(2mp-p) \\
&=& p-2k \\
&=& p-2,\,p-4,\,\cdots,\,-(p-4),\,-(p-2)
\end{eqnarray}$$となり、$-(p-2)$ 以上 $p-2$ 以下のすべての奇数からなる集合となる。すなわち、この平均との差の絶対値が $t$ である $2$ 整数 $p(2m-1)+t$,$p(2m-1)-t$ はともに $\displaystyle\prod_{k=1}^{p-1}2(mp-k)$ の項である。
(ア)と同様に、平均との差の絶対値が等しい因数どうしで積をとると
$$\begin{eqnarray}
&& \displaystyle\prod_{k=1}^{p-1}2(mp-k) \\
&=& 2(mp-1)\cdot2(mp-2) \\
&& \cdot\,\cdots\,\cdot2\{mp-(p-2)\}\cdot2\{mp-(p-1)\} \\[0.3em]
&=& \{p(2m-1)+(p-2)\}\{p(2m-1)+(p-4)\} \\
&& \cdot\,\cdots\,\cdot\{p(2m-1)-(p-4)\}\{p(2m-1)-(p-2)\} \\[0.3em]
&=& \{p^2(2m-1)^2-(p-2)^2\}\{p^2(2m-1)^2-(p-4)^2\} \\
&& \cdot\,\cdots\,\cdot\{p^2(2m-1)^2-3^2\}\{p^2(2m-1)^2-1^2\}.
\end{eqnarray}$$
ここで、最後の式を展開することを考える。
$\{\quad\}$ は $\dfrac{p-1}{2}$ 個あり、このうち $2$ つ以上 $p^2(2m-1)^2$ の方を選んで積をとると、少なくとも $p^4$ の倍数となるので、$p^3$ で割り切れる。
したがって、$\displaystyle\prod_{k=1}^{p-1}2(mp-k)$ を $p^3$ で割った余りは、下のⓐⓑの和となる。
ⓐ すべての $\{\quad\}$ で $p^2(2m-1)^2$ 以外の方を選んで積をとったもの
ⓑ $1$ つの $\{\quad\}$ で $p^2(2m-1)^2$ を、他の $\{\quad\}$ で $p^2(2m-1)^2$ 以外の方を選んで積をとったものすべての和
ⓐの値を $S$ とおくと
$$S=(-1^2)\cdot(-3^2)\cdot\,\cdots\,\cdot\{-(p-2)^2\}$$となり、これは $m$ に依存しない値となる。
ⓑの値は $S$ を用いて
$$\begin{eqnarray}
&& p^2(2m-1)^2\cdot\left\{\dfrac{S}{-1^2}+\dfrac{S}{-3^2}+\cdots +\dfrac{S}{-(p-2)^2}\right\} \\
&=& -p^2(2m-1)^2\cdot\left\{\dfrac{S}{1^2}+\dfrac{S}{3^2}+\cdots +\dfrac{S}{(p-2)^2}\right\}
\end{eqnarray}$$と表せて、これを $p^3$ で割った余りを考えるが、$p^2$ の倍数であることは確定しているので、
$$\dfrac{S}{1^2}+\dfrac{S}{3^2}+\cdots +\dfrac{S}{(p-2)^2}$$を $p$ で割った余りについて考える。
この値が整数であることに注意すると、$(**)$ より
$$\begin{eqnarray}
&& \dfrac{S}{1^2}+\dfrac{S}{3^2}+\cdots +\dfrac{S}{(p-2)^2} \\
&\overset{p}{\equiv}& S\cdot\langle 1^2|{}_p\rangle+S\cdot\langle 3^2|{}_p\rangle+\cdots +S\cdot\langle (p-2)^2|{}_p\rangle \\[0.2em]
&=& S\cdot\{\langle 1^2|{}_p\rangle+\langle 3^2|{}_p\rangle+\cdots +\langle (p-2)^2|{}_p\rangle\}.
\end{eqnarray}$$
ここで
$$A^2\cdot\langle A^2|{}_B\rangle\overset{B}{\equiv}1\overset{B}{\equiv}(A\cdot\langle A|{}_B\rangle)^2=A^2\cdot\langle A|{}_B\rangle^2$$であり、$A$ と $B$ は互いに素なので
$$\langle A^2|{}_B\rangle\overset{B}{\equiv}\langle A|{}_B\rangle^2$$が成り立つ。
したがって
$$\begin{eqnarray}
&& \dfrac{S}{1^2}+\dfrac{S}{3^2}+\cdots +\dfrac{S}{(p-2)^2} \\
&\overset{p}{\equiv}& S\cdot\{\langle 1|{}_p\rangle^2+\langle 3|{}_p\rangle^2+\cdots +\langle p-2|{}_p\rangle^2\}.
\end{eqnarray}$$
$1\leqq\langle A|{}_p\rangle\leqq p-1$ より、
$$\langle 1|{}_p\rangle^2,\,\langle 3|{}_p\rangle^2,\,\cdots,\,\langle p-2|{}_p\rangle^2$$を $p$ で割った余りは
$$1^2,\,2^2,\,\cdots,\,(p-1)^2$$を $p$ で割った余りのいずれかに等しい。
ここで
$$(p-t)^2=p^2-2pt+t^2\overset{p}{\equiv}t^2$$より、実質的には
$$1^2,\,2^2,\,\cdots,\,\left(\dfrac{p-1}{2}\right)^2$$を $p$ で割った余りのいずれかに等しいことが分かる。
また、$1\leqq i\lt j\leqq p-2$ を満たす奇数 $i,j$ で、
$$\langle i|{}_B\rangle^2\overset{B}{\equiv}\langle j|{}_B\rangle^2$$を満たすものが存在すると仮定すると、両辺に $i^2j^2$ をかけて
$$j^2\overset{B}{\equiv}i^2$$となるので、$j^2-i^2=(j+i)(j-i)$ が $p$ の倍数となるが、$j+i$ が $2p$ 未満の偶数であることと $j-i$ が $p$ 未満であることから、$(j+i)(j-i)$ は $p$ の倍数でないことが分かるため、矛盾する。
よって
$$\langle 1|{}_p\rangle^2,\,\langle 3|{}_p\rangle^2,\,\cdots,\,\langle p-2|{}_p\rangle^2$$を $p$ で割った余りは $\dfrac{p-1}{2}$ 個の相異なる整数となるので、
$$1^2,\,2^2,\,\cdots,\,\left(\dfrac{p-1}{2}\right)^2$$を $p$ で割った余りも相異なり、これらは $1$ 対 $1$ 対応する。(補足2)
したがって
$$\begin{eqnarray}
&& \langle 1|{}_p\rangle^2,\,\langle 3|{}_p\rangle^2,\,\cdots,\,\langle p-2|{}_p\rangle^2 \\
&\overset{p}{\equiv}& 1^2+2^2+\cdots +\left(\dfrac{p-1}{2}\right)^2 \\
&=& \dfrac{1}{6}\cdot\dfrac{p-1}{2}\cdot\dfrac{p+1}{2}\cdot p \\
&=& p\cdot\dfrac{p^2-1}{24}.
\end{eqnarray}$$
$p\cdot\dfrac{p^2-1}{24}$ は整数であり、$p\,(\geqq5)$ と $24\,(=2^3\cdot3)$ は互いに素なので、$p\cdot\dfrac{p^2-1}{24}$ は $p$ の倍数となる。(補足3)
よって、ⓑの値である
$$-p^2(2m-1)^2\cdot\left\{\dfrac{S}{1^2}+\dfrac{S}{3^2}+\cdots +\dfrac{S}{(p-2)^2}\right\}$$は $p^3$ の倍数であることが分かる。
以上より、$(**)$ の性質を用いると
$$\begin{align}
{}_{mp^2}\mathrm{C}_{p^2} &= m\cdot\dfrac{N}{D} \\
&\overset{p^3}{\equiv} m\cdot N\cdot\langle D|{}_{p^3}\rangle.
\end{align}$$
ここで、$N,\,\langle D|{}_{p^3}\rangle$ は $p$ と互いに素であり、$p^3$ で割った余りが$m$ に依存しない。よって
$$M=N\cdot\langle D|{}_{p^3}\rangle$$とおくと、$M$ は $p$ と互いに素であり、$p^3$ で割った余りが$m$ に依存しない整数なので、${}_{mp^2}\mathrm{C}_{p^2}$($\,m=1,2,3,\cdots,p^3\,$)を $p^3$ で割った余りは、それぞれ $M,2M,3M,\cdots,p^3M$ を $p^3$ で割った余りと等しく、$(*)$ よりこれらは相異なるので、$0$ 以上 $p^3-1$ 以下の整数と $1$ 対 $1$ 対応する。
(ⅰ),(ⅱ)より、${}_{mp^2}\mathrm{C}_{p^2}$($\,m=1,2,3,\cdots,p^3\,$)を $p^3$ で割った余りは $0$ 以上 $p^3-1$ 以下の整数と $1$ 対 $1$ 対応する。また、$0$ 以上 $p^3-1$ 以下の整数に $p^3$ の整数倍を加減することで任意の整数 $a$ とすることができる。
以上より、$n=mp^2$($\,m=1,2,3,\cdots,p^3\,$)のとき題意を満たすことが示された。$$\tag{証明終}$$
解説
${}_{n}\mathrm{C}_{p^2}$ や $\mathrm{mod}\,p^3$ といった見慣れないものが並ぶ超難問です。
少し実験をしてみると、$a=1$ のときは $n=p^2$ とすればよく、$a=0,p^3$ のときは $n=p^5$ とすれば ${}_{p^5}\mathrm{C}_{p^2}=p^3\cdot{}_{p^5-1}\mathrm{C}_{p^2-1}$ となり、$p^3$ の倍数となることがわかります。そこから、$n=mp^2$ が題意を満たすのではと予想がつきます。つきますが、その証明は非常に困難です。
$${}_{mp^2}\mathrm{C}_{p^2}=m\cdot{}_{mp^2-1}\mathrm{C}_{p^2-1}$$となるので、整数 ${}_{mp^2-1}\mathrm{C}_{p^2-1}$ が
・$p$ と互いに素
・$\mathrm{mod}\,p^3$ で $m$ に依存しない
ということがわかれば証明完了です。
$(*)$ はよく知られた事実ではありますが、受験数学でこれを証明に使う問題はあまりないので、なかなか思いつきにくいと思います。
また、「見かけは分数の形をした整数」の $\mathrm{mod}$ の扱いも慣れていないと混乱しがちです(本問は分母が上の $2$ 条件を満たすことが容易にわかるので、実はそこまで複雑ではありません)。
この問題は深掘りしてみると奥が深いです。興味がある人は
・$\mathrm{mod}$ の有理数への拡張
・ウォルステンホルムの定理
などを調べてみると、面白いことが見つかるかもしれません。
ところで、この問題を会場で解けた人はいるのでしょうか?$1$ 問あたりの平均が $1$ 時間であるこの試験で、この難易度の問題を持ってくる京大教授陣、恐るべしです…。
補足
〔1〕
$1\leqq i\lt j\leqq B-1$ を満たす整数 $i,j$ で、$iA$ と $jA$ を $B$ で割った余りが等しいものが存在すると仮定する。
このとき、$(j-i)A$ は $B$ の倍数となるが、$A,B$ が互いに素であることと $j-i$ が $B$ 未満であることから、$(j-i)A$ は $B$ の倍数でないことが分かるため、矛盾する。
(解答へ戻る)
〔2〕
$\langle A^2|{}_p\rangle$ のまま話を進めると、$1\leqq\langle A^2|{}_p\rangle\leqq p-1$ であり、$(p-1)$ 個の候補があります。それに対して実際に値を知りたい個数は $\dfrac{p-1}{2}$ 個であり、$2$ つの集合の要素は $1$ 対 $1$ 対応しません。
そこで、$\langle A^2|{}_B\rangle\overset{B}{\equiv}\langle A|{}_B\rangle^2$ と $(p-t)^2\overset{p}{\equiv}t^2$ を用いて、候補の項数を半分にし、$2$ つの集合の要素を $1$ 対 $1$ 対応させています。
(解答へ戻る)
〔3〕
$p=3$ のとき、$p$ と $24$ が互いに素でないため、$p\cdot\dfrac{p^2-1}{24}$ は必ずしも $p$ の倍数であるとは言えず(実際 $3$ の倍数とはなりません)、$p=3$ だけ別個で検討する必要があります。
(解答へ戻る)
まとめ
今回は、京都大学理学部特色入試・数学(2023年度 第4問)の解説をしました。
ほかの問題にもチャレンジしよう!
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