今回は、ことわざ「氷山の一角」が具体的に何パーセントなのか、計算で求めてみたいと思います。
氷山の一角とは
「氷山の一角」とはことわざで、全体のうち、表面に現れているほんの少しの部分という意味があります。
良くないことに対して用いることが多く、例えば「先日発覚した脱税は、あの会社がはたらいた悪事の氷山の一角に過ぎない」のように使います。
では、なぜこのような言い方をするのでしょうか?
氷山は海に浮かぶ氷の塊で、こんな見た目をしています。
かの有名な豪華客船 タイタニック号は、大西洋を航行中にこのような氷山にぶつかって沈没してしまいました。
不沈の船と言われていたタイタニック号を沈没に至らしめた氷山ですが、実は水面下も含めて見てみるとこんな姿をしています。
そうなんです、これがまさに氷山の一角なのです。
表面に顕在化している部分も、全体から見ればほんの一部分に過ぎない――ほんと昔の人は、たとえ上手ですよね。
あくまで例えとして用いられている「氷山の一角」、これが具体的に何パーセントなのかを求めるのが今回の話題です。
それでは、本題に入っていきましょう。
氷山の一角は何パーセントか
必要な定数
「氷山の一角」が何パーセントか計算するにあたって、必要となる定数を示します。それがこちら。
- 海水の密度 …… 1.03 ton/m³
- 氷山の密度 …… 0.92 ton/m³
そう、これだけなんです。
氷山の形とか体積についての情報も必要そうですが、実は必要ありません。
それを以下の計算でも確認していきましょう。
アルキメデスの原理
それでは Let’s 計算!
……といきたいところなのですが、そのためにまず、浮力に関するアルキメデスの原理というものを紹介します。この問題を解く上で必要となる考え方ですので、お付き合いください。
流体中の物体はその物体が押しのけている流体の重さと同じ大きさで上向きの浮力を受ける
イメージしやすいように、具体例を挙げます。
水を張ったプールの中に、1cm角のサイコロ(体積は1cm³)を入れます。このときサイコロは、同じ体積(1cm³)の水を押しのけたので、その押しのけた分の水の重さ、つまり1gの浮力を水中で受けるというわけです。
ここで面白いのが、水の中にサイコロではなく消しゴムや鉄の塊を入れたとしても、その体積が1cm³であれば、浮力は変わらず1gである、という点です!
つまり浮力は
- 流体の密度
- 流体中の物体の体積
の2点だけ分かれば求めることができるのです。
水の密度は1g/cm³なので、体積1cm³の水の質量は1gとなります。
「1gの浮力」というのは実は正確な表現ではありません。
なぜなら、「1g」は質量、「浮力」は力の一種であり、これらは別物だからです。
(「質量×加速度=力」という式で、両者は関係づけられます。)
正しくは「1gfの浮力」とするべきですが、ここではわかりやすさを優先するため、あえて訂正せずにいきます。
いざ計算!
お待たせしました!
それではいよいよ「氷山の一角」が何パーセントか、計算していきましょう。
今さらですが、『「氷山の一角」は何パーセント?』は少し抽象的なので、誤解なく解けるように問題文を言い換えますね。
氷山を海水に浮かべたとき、水面上に出ている氷の体積は、氷山全体の体積に対して何パーセント?
- 海水の密度:1.03 ton/m³
- 氷山の密度:0.92 ton/m³
改めてこの問題文をもとに答えを導いていきます。
何パーセントくらいになりそうか、ぜひ予想を立ててからご覧ください。
まず、氷山全体の体積を $V_{ALL}$ (m³)、水面上に出ている氷の体積を $V$ (m³)とします。
こう設定すれば、
$$\frac{V}{V_{ALL}}\times100$$
が目標とする答えになります。
つまり、$V$ と $V_{ALL}$ の比さえわかれば答えが分かります。
そのために、力の釣合を用います。
具体的には、氷山は海に浮かんでじっと静止しているため、鉛直方向に力が釣り合っていると言えます。
ではこの状況で、鉛直方向にはたらく力とは何でしょう?
まず1つ目は、重力ですね。これは氷山全体に作用するものです。
氷山全体の体積は $V_{ALL}$ (m³)、密度は0.92 ton/m³なので、氷山全体にかかる重力は
$$V_{ALL}\times0.92 \ (\mathrm{ton})$$となります。
では他にどんな力があるでしょうか。先ほどサイコロを例に挙げて説明したアレがありますよね。
そう、浮力です。これは水中に沈んでいる氷山に対してだけ作用するものでしたね。
その体積は「全体」から「水面上」を引けばいいので、$V_{ALL}-V$ (m³)とわかります。一方で海水の密度は1.03 ton/m³なので、氷山にかかる浮力は
$$(V_{ALL}-V)\times1.03 \ (\mathrm{ton})$$となります。
これで材料は揃いました。
これ以外に鉛直方向の力はありません。
また、重力は下向き、浮力は上向きなので、「重力=浮力」という式を立てればよさそうです。
ではやってみましょう。
$$\begin{eqnarray} V_{ALL}\times0.92&=&(V_{ALL}-V)\times1.03\\[0.3em]
1.03V&=&0.11V_{ALL} \end{eqnarray}$$
ここまで来れば、先ほど示した「答えの形」に持っていけそうです。では式変形を進めていきましょう。
$$\begin{eqnarray} 1.03V&=&0.11V_{ALL}\\
\frac{V}{V_{ALL}}&=&\frac{0.11}{1.03}\\
\frac{V}{V_{ALL}}\times100&=&\frac{0.11}{1.03}\times100=10.6\cdots \end{eqnarray}$$
ついに答えが求まりましたね。
10.6…となっているので、約11%ということです。
どうでしょう、予想よりも大きかったですか?小さかったですか?
まとめ
今回は、氷山の一角が何パーセントなのかを計算で求めてみました。
答えは約11%でしたので、氷山の約9割は水面下にあることになります。
今後、旅行や映画などで氷山を目にするときがあったら、「水面上に見えてる部分は全体から見たら1割なんだよ」「水面下には、水面上に見えてる部分の9倍も沈んでるんだよ」と周りの人に教えてみてください。
ちょっとした雑学博士になれるかも?